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紫色のクオリア

32262115 うえお 久光/綱島 志朗 (電撃文庫) ★★★☆☆

 『悪魔のミカタ』や『シフト』で知られるうえも先生の新作、ではなく電撃MAGAZINEに掲載された短編に書き下ろしを加えたものだそうです。

 なんていうか……すっげぇ評価がむずかしいよ。物語としては『人がロボットに見える』不思議な少女『毬井 ゆかり』とその親友『波濤 学』を中心として、前半はゆかりに関する情報……というより学から見た『ゆかり』と、その力に関わる事件を、後半は力のために失われるゆかりを求める学の旅が描かれています。

 前半部はわりと理解しやすくすんなり頭に入るのですが……後半がぱっと見て理解しづらすぎる……。特に数多くの理論説明がなされますが、よく考えてそれを理解すると、別に物語の展開とはほとんど関係なかったりして……正直、文庫本をぶん投げようと思ったことはあっても火にくべようかと思ったのは初めてでした。

 物語そのものは観測者理論と多世界解釈をベースとした造りが斬新で面白かったのですが、これはもう少し工夫して理論を感覚で捉えられるくらいまで簡略化してよかった気がします。どうしても理解しがたいという人はTVアニメ『ノエイン』とか『ひぐらしのく頃に』とかが微妙に似たような設定のもとで描かれているのでそんなようなものだと思っていただければ。

 後半部の展開がわかりにくくて仕方ないので、ここに学の能力をまとめると、

・左手の携帯を通じて平行世界と情報を共有できる(ここではこの現象を仮に『同期』と呼称)同期するためには対象となる平行世界と一度連絡を取り合う必要があり、平行世界が無限数あろうともこの力自体は有限な能力である(従って、無限の平行世界の中から『ゆかりを救うことに成功した世界』を見つけ、そこに同期することが目的となる)

・同期した平行世界を含む過去・未来全ての可能性の内、最も都合が良いものを他の平行世界全てに上書きできる

・遺伝子上つながりのある全ての人物(この場合、日本人全てが同じ血族だと仮定すると全ての日本人)の意識を乗っ取ることができる(作中で学はこの現象を「他人になった」と勘違いしていたが、後のゆかりの解説から、このような解釈が妥当)ただし一部天才など学本人が「自分とは決定的に違う」という認識の人物は乗っ取れない

・『万物の理論』の超越により(詳細不明)、理論を越えた意識生命体として行動が可能(ただし、肉体を失っても意識は『波濤 学』のものであるため、やはり学以外の何物にもなれない)

 ……こんなところでしょうか。正直何度か読み返しても自分の解釈が正しいのか自身が持てませんが……。最終的に『万物の理論を超越したことにより意識生命体となる』というわりと意味不明な展開で物語を強引に終束させてしまった辺りがちょっとご都合主義的な展開で残念でした。

 ゆかりを救うための条件が『ゆかり自身の運命に抗おうとする行動を促す』というものであった点もどうなのでしょう。作中で学は既にゆかり本人や両親に自衛を徹底するよう呼びかけているにも関わらず失敗しましたよね。つまり結局はゆかりを救う術は無いのでは……などと、すこしこの後の展開が気になる一冊ではありました。なんだかハッピーエンドっぽく終わっていますが、その世界でゆかりを無事救うことが出来るとは限らないのですよね……。しかし、前半ラストでゆかりや学を守ってくれた通り、二人を守る『何か』の存在があるようですし、ここは二人が無事に過ごせたと信じましょう。こういう多解釈的な物語は嫌いじゃないですし。

 とはいえ、前半ラストのシーンでゆかりが『ソレ』を違和感無く受け止めているのが気になります。もしかしたらゆかりにも学と同じように平行世界と同期する力があったのかな……?

 SF大好き理論薀蓄大好きな物語を考えて読む人にはお勧めかなぁ……逆に推理小説を物語の流れるままに考えないで読むような人にはお勧めできないかも。

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