« 2009年6月 | トップページ | 2009年8月 »

2009年7月

血吸村へようこそ 2

32262114 阿智 太郎/あらき かなお (電撃文庫) ★★☆☆☆

 私は知らなかったのですが、巻末の著作リストの長さに驚いた、阿智先生の血吸村シリーズ。正直なところ続刊を買うか迷ったのですが、今月の電撃は新作が少ないのでとりあえず手に取ることに。

 主人公親子が巧みな誘いに乗せられ移住した村は、実は村人が全員吸血鬼。年に一度の血吸祭で主人公も吸血鬼にされてしまうところでしたが、数名の女の子の機転(きまぐれ?)で本人がその気になるまで吸血鬼化を待ってもらえることに。しかし主人公が人間であると知っているのは本人を含め6人だけで、それ以外の人に知られたら問答無用で吸血鬼にされてしまう……。

 ……というのが物語の大雑把な設定。しかしながらトラブル体質な主人公は正体を露見してしまいそうな場面がいくつもあり、その度に周囲のフォローと幸運で乗り切る、みたいな。今回も例に漏れずそんな感じです。

 だが……なんだ。物語としての設定は面白いのだけれど、起こる出来事もその解決方法もなんとなくありきたり……というより行き当たりばったり気味で、それ故に読み易く、アイディアや設定はユニークなのにそれを上手く活かしきれていない感じでした。特に後半へ進めば進むだけ、物語ではなく主人公が女の子に囲まれて……というシチュエーションを楽しむ、MF文庫辺りにありがちな単なる萌え小説となってしまっている辺りが残念でした。

 特に吸血蚊のくだり。潰してもつぶしても死なない上に殺虫剤も虫除け剤も効かず、網戸を破るほどのパワーを持った不死身の蚊……こいつはこええゼ! と、後の展開に期待したのにわりとあっさり潰されちゃったし……。もっとこう、ターミネーター的に苦労してもよかったと思うのですね。

 つまらなくはない、けれど面白くもない。そんな感想がよく似合う一冊でありました。MF文庫好きな人はいけるんじゃないかな?

| | コメント (0) | トラックバック (0)

紫色のクオリア

32262115 うえお 久光/綱島 志朗 (電撃文庫) ★★★☆☆

 『悪魔のミカタ』や『シフト』で知られるうえも先生の新作、ではなく電撃MAGAZINEに掲載された短編に書き下ろしを加えたものだそうです。

 なんていうか……すっげぇ評価がむずかしいよ。物語としては『人がロボットに見える』不思議な少女『毬井 ゆかり』とその親友『波濤 学』を中心として、前半はゆかりに関する情報……というより学から見た『ゆかり』と、その力に関わる事件を、後半は力のために失われるゆかりを求める学の旅が描かれています。

 前半部はわりと理解しやすくすんなり頭に入るのですが……後半がぱっと見て理解しづらすぎる……。特に数多くの理論説明がなされますが、よく考えてそれを理解すると、別に物語の展開とはほとんど関係なかったりして……正直、文庫本をぶん投げようと思ったことはあっても火にくべようかと思ったのは初めてでした。

 物語そのものは観測者理論と多世界解釈をベースとした造りが斬新で面白かったのですが、これはもう少し工夫して理論を感覚で捉えられるくらいまで簡略化してよかった気がします。どうしても理解しがたいという人はTVアニメ『ノエイン』とか『ひぐらしのく頃に』とかが微妙に似たような設定のもとで描かれているのでそんなようなものだと思っていただければ。

 後半部の展開がわかりにくくて仕方ないので、ここに学の能力をまとめると、

・左手の携帯を通じて平行世界と情報を共有できる(ここではこの現象を仮に『同期』と呼称)同期するためには対象となる平行世界と一度連絡を取り合う必要があり、平行世界が無限数あろうともこの力自体は有限な能力である(従って、無限の平行世界の中から『ゆかりを救うことに成功した世界』を見つけ、そこに同期することが目的となる)

・同期した平行世界を含む過去・未来全ての可能性の内、最も都合が良いものを他の平行世界全てに上書きできる

・遺伝子上つながりのある全ての人物(この場合、日本人全てが同じ血族だと仮定すると全ての日本人)の意識を乗っ取ることができる(作中で学はこの現象を「他人になった」と勘違いしていたが、後のゆかりの解説から、このような解釈が妥当)ただし一部天才など学本人が「自分とは決定的に違う」という認識の人物は乗っ取れない

・『万物の理論』の超越により(詳細不明)、理論を越えた意識生命体として行動が可能(ただし、肉体を失っても意識は『波濤 学』のものであるため、やはり学以外の何物にもなれない)

 ……こんなところでしょうか。正直何度か読み返しても自分の解釈が正しいのか自身が持てませんが……。最終的に『万物の理論を超越したことにより意識生命体となる』というわりと意味不明な展開で物語を強引に終束させてしまった辺りがちょっとご都合主義的な展開で残念でした。

 ゆかりを救うための条件が『ゆかり自身の運命に抗おうとする行動を促す』というものであった点もどうなのでしょう。作中で学は既にゆかり本人や両親に自衛を徹底するよう呼びかけているにも関わらず失敗しましたよね。つまり結局はゆかりを救う術は無いのでは……などと、すこしこの後の展開が気になる一冊ではありました。なんだかハッピーエンドっぽく終わっていますが、その世界でゆかりを無事救うことが出来るとは限らないのですよね……。しかし、前半ラストでゆかりや学を守ってくれた通り、二人を守る『何か』の存在があるようですし、ここは二人が無事に過ごせたと信じましょう。こういう多解釈的な物語は嫌いじゃないですし。

 とはいえ、前半ラストのシーンでゆかりが『ソレ』を違和感無く受け止めているのが気になります。もしかしたらゆかりにも学と同じように平行世界と同期する力があったのかな……?

 SF大好き理論薀蓄大好きな物語を考えて読む人にはお勧めかなぁ……逆に推理小説を物語の流れるままに考えないで読むような人にはお勧めできないかも。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

夜と血のカンケイ。

32262111 丸山 英人/osa (電撃文庫) ★★☆☆☆

 第15回電撃大賞で<MAGAZINE賞>を受賞した丸山先生の長編デビュー。あんまり期待はしていなかったですが、わりと面白く読めたと思います。

 自分の血を吸わず自分を見捨てて去った吸血鬼を見返すためだけに身体を健康に保ち続け美味しい血の持ち主となった主人公 陶原。吸血鬼の夜音と再会を果たし、血を吸わせる条件で何でもいう事を聞かせられるようになったのだが――?

 つまり、『好きな人に振り向いてほしい一心で自分を磨いていた』陶原の心境がわかりやすくてよかった、というよりわかり易すぎてよくなかった。相手への気持ちがそのまま憧れや恋愛感情に置き換えられるわけですね。序盤のイヤガラセも好きな子をいじめてみたくなるという男の子特有の心理なのでしょうが、どこか徹しきれず躊躇いが捨て切れていないあたりがよく陶原の気持ちを表現していたと思います。

 反面、夜音の心理はいまひとつわかりづらい。人間はただの餌、家畜、その人間にコキ使われる屈辱を味わわされて――と反感する気持ちはわかるのですが、ならばなぜ陶原に好意を持つか。学校のロッカー事件以前から陶原と会うのを楽しみにしていたふしがありますが、それが何故なのかよくわからなかった。少なくともその時点までで主人公に魅力的な点はなかったよなぁ……。

 ストーリーが読みやすくわりと平凡な終わり方でオチもいまひとつなのは新人であるがためでしょうが、冒頭に多用される『復讐』の単語からはもう少し別なものを期待していました。少なくとも「見返してやりたい!」っていう感情を復讐と呼ぶのは違うような気がします。んで復讐と言いつつやってることは単なるウサ晴らしだし、序盤で一旦読むのをやめようかとも思いました。この辺りは構成上の問題でしょうか、序盤の主人公がとにかく魅力に欠ける。最低ならまだいいのですが単なる意味不明なキャラになってしまっているのが残念でした。この辺り、もう少し上手にまとめて主人公の回想は省いて目的もぼかしたまま話を進めていたらなぁ……もっとインパクトのある作品になったのに。なまじ復讐心がそのまま好意だったという仕掛けが面白いだけに残念でした。主人公の目的『復讐』をもっと隠すかもっと押し立てるか、どちらかにすれば少なくとも序盤の回想シーンで最後の展開まで見通されるということは無かったはずです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2009年6月 | トップページ | 2009年8月 »